— GROWTH · 自分を育てる本棚 —

何のために勉強するんだろう

— 第1部:迷い / 勉強を「道具」として捉え直す ―

What Is Study For — Part 1

In a word

勉強は、えらいものでも神聖なものでもない。世の中にたくさんある道具の一つ。
才能に見えるものの正体は、たいてい積み重ねた量の差。

はじめに ── 正直に言っておきたいこと

きみに何度も「勉強はしたほうがいい」と言ってきた。

でも正直に言うと、「なんで?」と聞かれたとき、「将来のためだよ」としか答えられなかった。もっと詳しく説明してくれと言われても、たぶん困っていたと思う。

理由は単純で、父さんもそう言われて育っただけだからだ。親に言われ、先生に言われ、そういうものだと思って過ごしてきた。本当のところ何のためなのか、腰を据えて考えたことが一度もなかった。

だから今回は、教えるつもりで書いていない。一緒に考え直したくて書いている。

この夏、時間はいつもより多い。計画的に遅れを取り戻すことは、しっかりやったらいい。それは大事なことだ。そのうえで、その時間の一部を「そもそも何のためにやっているのか」に使ってほしい。普段は目の前の課題をこなすだけで一日が終わってしまうけれど、今なら少し立ち止まれるはずだから。

1. やめてほしいのは、勉強そのものじゃない

先に一つ、お願いがある。

課題も講座も、計画通り進めていい。手を止めてほしいわけじゃない。

止めてほしいのは、「何のためか分からないまま続けること」のほうだ。

この夏のあいだ、「将来のため」という理由を一度手放してほしい。誰かから借りてきた理由だから、返してしまっていい。理由が空っぽのまま、手だけ動かしていていい。

そして、その空いた場所に入れる自分の理由を、この夏のあいだに探してほしい。

順番が逆に思えるかもしれない。理由がないのに続けるなんて変だ、と。でも、借り物の理由が入っている限り、自分の理由は入らない。まず空けることのほうが先なんだ。

2. やる気が出ないのは、君のせいじゃない

「やる気が出ない」と感じるとき、たいていの人は自分を責める。自分は意志が弱い、根性がない、と。

でも、それは違うと思う。

人の心は、中身のない理由では動かないようにできている。「将来のため」と言われても、その将来がどんなもので、なぜ今の勉強がそこにつながるのかが見えなければ、心は動かない。それは君の欠陥じゃなくて、人間の仕組みだ。

しかも厄介なことに、その言葉を言っている大人自身も、本当のところを分かっていない。分かっていない人が、分かっていない言葉で人を動かそうとする。動かされる側は、理屈じゃなく感覚で「なんか違う」と気づく。そして反発する。

君はちゃんと机に向かっている。時間も使っている。足りなかったのは努力じゃなくて、自分の言葉で言える理由のほうだ。

それが見つかると、同じ勉強がまったく違うものになる。

3. 勉強は「道具」の一つにすぎない

ここから、見方を一つ変えてみたい。

勉強は、えらいものでも神聖なものでもない。世の中にたくさんある道具のうちの一つだ、という見方だ。

道具というのは、何かの不便を解消するために生まれる。冷蔵庫は食べ物が腐る不便を、車は遠くへ行けない不便を、洗濯機は手で洗う不便を解消するために生まれた。

では、勉強という道具は、どんな不便を解消するために生まれたんだろう。この問いを持ったまま、少し先まで読んでほしい。

4. 道具そのものに、良いも悪いもない

君のスマホを考えてみよう。調べものができる。連絡が取れる。地図が見られる。勉強にだって使える。とても便利な道具だ。

でも同じスマホで、一日を溶かすこともできる。人を傷つける言葉を、一瞬で何百人にも届けることもできる。

このとき、悪いのはスマホだろうか。違う。使い方だ。

道具そのものに、良いも悪いもない。良し悪しは、使う人の側にある。

これは全部の道具に言えることだ。包丁も、車も、インターネットも、便利であると同時に危険でもある。

だから「悪用できるものは捨てろ」という理屈は成り立たない。それを言い出したら、世の中の道具は全部捨てることになる。

5. 勉強という道具の、間違った使い方

勉強も道具である以上、間違った使い方がある。

知識を使って人を言い負かす人がいる。勉強ができない人を見下す人がいる。詳しくなった分野の知識を使って、人をだます人もいる。勉強に没頭しすぎて、人の気持ちが分からなくなってしまう人もいる。

こういう人たちは、勉強という道具をたくさん使っている。使っているのに、周りの人を不幸にしている。

つまり、「たくさんやったかどうか」は、良し悪しを決めないということだ。

だから、大事な問いは「やるかやらないか」じゃない。「何のために使うのか」だ。

6. 道具は「共通の目的」でとらえる

ここで、目的の捉え方について一つ整理しておきたい。

お金は何のためにあるだろう。服を買うため。旅行するため。ライブに行くため。全部その通りだ。

でも、「自分は服に興味がないから、お金はいらない」とはならないよね。服はお金の使い道の一つにすぎなくて、お金そのものの目的じゃないからだ。

全部の使い道に共通しているのは、価値を交換すること。これがお金という道具の、本当の目的だ。

勉強も同じ構造をしている。「大学に行くため」は、勉強という道具のたくさんある使い道の、そのうちの一つにすぎない。だから「大学に行かないから勉強はいらない」も成り立たない。

用途と目的を取り違えると、道具の使い方を間違える。だから、共通の目的のほうを見つけないといけない。

7. 勉強という道具で、共通して手に入るもの

では、進路に関係なく、勉強を続けることで共通して手に入るものは何だろう。五つ挙げてみる。

どれも、大学に行くかどうかとは関係がない。社会に出てから、ずっと使い続けるものばかりだ。

8. 「才能がないから」は、たぶん嘘

ここで一つ、多くの人を止めている思い込みについて話しておきたい。

同じ日に、同じゲームを始めた二人がいるとする。半年後、上手いのはどっちだろう。長くやったほうだ。当たり前の話に聞こえるよね。

でも不思議なことに、勉強になった途端、人はこれを「才能」で説明したがる。あいつは頭がいいから、自分は暗記が苦手だから、と。

テスト前日に三時間やった人と、やらなかった人に差が出るのは当たり前だ。それは才能の差じゃなくて、積み重ねた量の差だ。

才能に見えるものの正体は、たいてい蓄積量の差だ。

そして、いちばん成長を止めるのは「自分はこういうのが苦手だから」という思い込みのほうだ。

その思い込みは、だいたい周りの大人の一言から始まっている。「お母さんも暗記が苦手だったから」「あの子は昔から頭がよかったから」。言うほうは慰めているつもりでも、言われたほうはそこで伸びるのをやめてしまう。

もし君の中にそういう思い込みがあるなら、この夏に一度、疑ってみてほしい。

9. 心が育つから、結果がついてくる

ここが、この第1部でいちばん伝えたいところだ。

親が子どもに習い事をさせるとき、本当の理由は何だろう。

サッカーでもピアノでも、プロにするためにやらせている親はほとんどいない。続ける力、うまくいかない時期を耐える力、負けた悔しさ、仲間への感謝、教えてくれる人への礼儀。そういうものを育てたいからやらせている。

じゃあ、もし親がコーチにこう言ったらどうなるだろう。

「心はどうでもいい。技術だけ鍛えてプロにしてくれ」

答えは一つしかない。

「それは無理です」

技術だけを取り出して伸ばすことはできない。続ける力がなければ練習が続かないし、負けを受け止められなければ次に進めない。心が育つ過程を飛ばして、結果だけを手に入れることはできないんだ。

勉強もまったく同じだ。「心の成長はどうでもいいから、テクニックだけで点数を上げてくれ」も、同じ理由で無理だ。

点数は結果であって、目的じゃない。

順番が逆になると、うまくいかない。点数だけを追いかけると、点が取れないときに折れてしまう。でも「自分を磨くために使っている」と分かっていれば、点が悪くても続けられる。そして続けられる人が、結局は点も取る。

10. 勉強とは、人類の英知を受け継ぐこと

そろそろ、最初の問いに答えを出したい。勉強という道具は、どんな不便を解消するために生まれたのか。

ある数学者が、一生をかけて一つの定理を見つけたとする。何十年もかかったかもしれない。

その答えを、君は数分の説明で自分のものにできる。

これはよく考えるとすごいことだ。もし受け継ぐ仕組みがなかったら、人類は毎世代ゼロからやり直すことになる。火の起こし方から始めて、一生かけて少し進んで、また次の世代がゼロから。それでは何も積み上がらない。

だから、勉強とはこういうことだと思う。

今まで地球上に生きた人たちが発見し、次の世代へ伝えてきた知識と知恵を、今度は自分が受け継いで、自分のものにすること。

これができるのは人間だけだ。だから人間だけが文明を築けた。

しかもこの道具には、いい性質がいくつもある。一人でできる。相手も道具も場所も要らない。いつでもどこでもできる。そして年齢のピークがない。スポーツは身体のピークがあるし、続けるには仲間も場所も要る。でも勉強は、六十歳からでも七十歳からでも新しく始められる。

だから勉強は、自分を磨くための最良の道具なんだ。

11. 学校の勉強だけが、勉強じゃない

最後にもう一つ、視野を広げておきたい。

「勉強」と聞くと、国語、数学、英語といった教科を思い浮かべると思う。でも社会に出ると、学校の授業とは別の勉強が、今まで以上に必要になる。

仕事のこと。お金のこと。人間関係のこと。健康のこと。全部が勉強の対象だ。しかも教科書も先生もテストもない。自分で必要だと気づいて、自分で学ばないといけない。

あらゆる年齢の人が、それぞれの毎日の中でその必要性を感じている。親である父さんも、いまだに毎日それを実感している。

だから学校の勉強は、その練習台だと思っている。

「学校を出たら終わり」じゃなくて、ここからずっと続く。今のうちに学び方に慣れておくと、あとがずいぶん楽になる。

学びのポイント

— QUESTION —

君への問い

ここまで読んでくれてありがとう。第1部の最後に、一つだけ問いを残しておきたい。

君は勉強という道具を使って、
自分の何を鍛えたい?

すぐに答えを出さなくていい。この夏のあいだ、ずっと考えていていい。 ただし、見つかったら紙に書いてほしい。頭の中にあるだけだと、たいてい消えてしまうから。

考えていないものは、絶対に手に入らない。
だから、思いっきり欲張って考えていい。一つじゃなくてもいい。

その答えが、空っぽにしておいた場所に入る、君自身の理由になる。

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From father

何度も「勉強しなさい」と言ってきたけれど、本当の理由を、父さんはちゃんと言葉にできていなかった。
今回は、教えるためじゃなく、一緒に考え直すために書きました。
この夏、時間の一部を「何のためにやっているのか」に使ってみてほしい。
答えは急がなくていい。ただ、見つかったら紙に書いてください。
考えていないものは、絶対に手に入らないから。

参考文献:喜多川泰『手紙屋 蛍雪篇』ディスカヴァー・トゥエンティワン

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